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| 世界でいちばんわかりやすい哲学小説 |
| 『おばあちゃん、青い自転車で世界に出逢う』 (ガブリ・ローデナス 宮ア真紀訳 小学館) |
「哲学小説」と銘打っているが、これが正しかったら、まさに世界でいちばんわかりやすい哲学小説であろう。あるいは、「世界でいちばんやさしい哲学小説」である。この「やさしい」には3つの意味がある。ひとつは、主人公のおばあちゃんの「優しさ」、ふたつ目は、ストーリーの印象の「やさしさ」、最後は、哲学としての「易しさ」。 天涯孤独のマルおばあちゃんは、自分の息子がすでに亡くなっていること、彼にはひとり息子がいることを知り、まだ見ぬ孫に会うため、自転車で何百キロもの旅をする。90歳の老婆にそんなことが可能なのかとつい思ってしまうが、物語を読んでいるかぎりは不思議と違和感がない。 マルおばあちゃんは旅先でさまざまな人と出会い、それぞれの出会いはほんとうに温かくて優しい気持ちにさせられる。出会いのたびに教訓があるが、いずれもまったく説教臭さがなく、人生で大切なことを実感させられるのである。 もっとも、おばあちゃんの生い立ちはけっこう複雑で、現代ではさほどではないかもしれないが、このおばあちゃんが若かったころには決して褒められたことではないかもしれない。しかし、マルおばあちゃんはまさに善意のかたまりで、一介の老婆に過ぎないが、人生の達人であり、人というものを、人生というものを、人間社会というものを深く理解している。こんな人がそばにいてくれたらと思うことしきりだが、現実には高齢者だって、人生を達観している人は少ないのではないか。 とにかく、生きることにつきもののデメリット、負の要素が皆無。かといって、現実味がないわけではない。厚みのある人物像に仕上がっており、だれもが身近に感じるだろう。 ある種のロードノヴェルと言えそうだが、このロードノヴェル的構造は、哲学思想の表明の進度とシンクロしている。マルおばあちゃんの人と人との出会いの数と、哲学思想の数とは正比例しているのである。そのため、単に単発的に教えを諭しているのではなく、哲学そのものが構造的で物語につれてしだいに深度を深めている。箴言や警句を語っても、それが単発的であれば、やはりその場限りになるだろう。この物語は、学びと気づきを深めてくれるのである。 もちろん、哲学的要素を除いても、この物語はおもしろい。だが、そのおもしろさは、そこに込められた哲学思想と完全に表裏一体になっているのだ。 (2021/12/4) |
| (弾 射音) |